小説

「いやだぁぁぁ!」

例年にない暑さで攻撃し続けた夏もどこかへ撤退し、
見上げると、そこにひろがるのは秋の空。
「あー、引越しでもしようかな」
今住んでるところにも飽きてきたし、気分転換を兼ねての部屋探し。
でも、思いっきり遠くに離れるわけにもいかず、バス停5個分だけ進んでみた。
すぐ近くなのに、今まで歩いた事のない道。
見知らぬ家並。
ちょっとした旅行気分。
「不動産屋はあるかな?」
ひとりごちながらキョロキョロ探す私。
そんな私の目の前に、変わったデザインの建物が・・・。
「ぷりずん まんしょん?」
見上げると最上階はいまだ工事中の様子。
でも、その下の階までは人の住む気配が。
物珍しさも手伝って、入り口に近づいてみた。
  【入居者募集】   貼り紙がしてある。
「何だか面白そう」
ほーら、出てきたよ、私の悪い癖!
ヘンテコなものや奇妙なものに無条件に引っ張られてしまう。
この性格のお陰で、どんだけ破茶目茶な展開を経験したことか。
                                      
自動ドアの前に立つと、微かな振動音とともに扉が開いた。
ーーーギュゥイィィ~ンーーー
ギターの音と一緒に男の人が現れた。
「PRISON MANSIONへようこそっ!!」
ーーージャガジャァ~ンーーー
呆気にとられてる私なんかお構い無しだ。
「入居希望者だね、ベィビー。ほら、キーだ受け取りな」
目の前にずいっと鍵が差し出される。
「あっ、いえ・・その・・、部屋を見せてもらえますか?」
「部屋を見る?そんな必要は無いぜー。気に入らないところは
ぜーんぶ作り変えちまってオッケィさっ!」
「作りかえる?」
「壁なんかぶっ壊しちまえよ。イカれたロックンロールパーティしようぜ」
意味不明なことを言いながら、私に鍵を持たせると、彼は部屋に消えて行った。
「まっいっか。どうせだから部屋だけでも見てくるか」
鍵についてるプレートで部屋番号を確かめてエレベーターに乗る。
5階のボタンを押す。
ーーーピンポンーーー
2階でエレベーターが止まると、迷彩服を着た厳つい男の人が乗ってきた。
真っ白で可愛いプードルを抱きながら・・・・。
何だか落ち着かない。次の階で降りよう。
ーーーピンポンーーー
私はエレベーターを降りて、階段を探した。
廊下を歩いているとウェディングドレスを着た女性とすれ違った。
なんか不思議なところだなぁ。
階段を昇ろうと思ったら、今度はランドセルを背負った小学生。
「これから学校?」って聞いたら
「学校への行き方忘れちゃったよぉ」って泣き顔になった。
ここ、なんだか変だよ。まずいかもしれないよ。
「帰った方がよさそうじゃない?」
自分で自分に質問してみる。答えはYES。
急いで階段を下りる。
さっき入ってきた自動ドアの前に立つ。
・・・・あっ、開かない・・・・・
「HEY YOU!無理だぜ」
さっきのギターの人だ。
「無理って?」
ギターの人はニヤリと笑って答えた。
「鍵を受け取った人は、二度とは で・ら・れ・な・い・・・」
                           

                                                            
今朝、「PRISON MANSION」を聴いたら
一日中、頭から離れなくなっちゃったの。
それで、なんとなくね・・・・・。

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企画第一弾に参加です

小説部・企画第一弾『ポルノグラフィティの曲からイメージして小説を書いちゃおう』に
またもや挑戦いたします。
今回は「ネオメロドラマティック」を聴いていて、ふと湧いてきたイメージで書きます。

『ネオメロドラマティック』

 いつものように作業服に着替え、頭からつま先まで白一色になったミアは、滅菌室の中で、溜め息をついた。
人工的に造られたこの地下農園。そこには太陽の光も土も無く、コンピュータで制御され作り出された24時間の朝と夜の世界。植物の根は栄養たっぷりの液体の中に伸び、緩やかな流れに身をまかせ水草のように揺れている。この中で栽培されているのは、特別な植物などではなく、一般家庭の食卓に並ぶ野菜なのだ。
 15年前、ミアはこのシステムを開発するメンバーの一員だった。その頃のミアは、ただ無限の可能性を追い求める一研究員という自覚しか持っていなかった。まさか、自分たちの研究の目的が、こんな形で利用されることとは思いもよらなかった。
 滅菌室のドアを開け、農園の中に入るとミアは立ち止まって全体を見渡した。もうすでに、収穫作業が始まっていた。自分と同じように全身を白い作業服で覆いつくされた彼らの姿を見ていると、彼女の胸は言い様もない不安と、そして後悔の気持ちでいっぱいになってしまう。その苦しさを吐き出すかのように、また溜め息をつく。 
「さあ、仕事に取りかからなければ」彼女は、自分に言い聞かせるようにつぶやき、制御装置の点検をはじめた。チェックリストを確認しながら、慎重に点検をしていく。万が一、不良な箇所があれば、ただちに改善していかなければならない。作物に影響を及ぼさないように速やかに。その為にも、ミアは毎日、この点検を行っているのだ。
 機械の作動する音と、植物の栄養源である液体の流れる音、そして、彼らの作業服の衣擦れの音、それ以外の音は全く聞こえない静かな空間。ミアは自分の心臓の音さえ聞こえてくる位のこの静けさが、たまらなく苦痛だった。
(いずれ私自身も、この静寂の中に組み込まれる)ミアは思った。

 この国は、出生率の低下にともなった人口の減少という深刻な問題を抱えていた。それは、産業や経済にも影響を及ぼしていた。はじめ、政府は高齢化による労働力不足を外国人就労者を積極的に受け入れることで解消しようとしていた。けれど、高度な技術を身に付けてしまうと、彼らは躊躇うことなく自らの国に帰って行った。そして、その技術力を利用して安価な製品を作り出し、今度は逆にこの国に買ってくれと言う。同様の製品が安く手に入るならばと、消費者たちは飛びつく。結果、この国の産業は衰退しはじめ、輸入と輸出の均衡が保てなくなるという事態を引き起こした。
 この事態を憂えた政府は、輸入の制限を実施しようと考えたが、そこにはもう1つの大きな問題が横たわっていた。それが、食料の問題だった。
都市開発を推進してきたこの国では、農地というものは減少の一途を辿り、農産物や畜産物など、食料の殆どを輸入に頼っている状態だったのだ。
 そこで、研究者を集め、天候に左右されること無く自給自足のできるシステムの開発に取り掛からせた。研究費用の捻出を考えずに取り組むことが出来るこのプロジェクトは、彼ら研究者たちにとっては、大きな魅力だった。彼らは、いずれ訪れるであろう異常気象による食料不足に備える為にも、この研究は重要なものだと考えていたし、政府もその為に自分たちに費用を出してくれるのだと信じきっていた。よもや、同時期に他の研究が進められていようことなど、夢にも思っていなかった。
 自給自足の研究を進めさせる一方で政府のトップたちは、出生率の減少の問題と労働力不足の問題解消のために、新たなプロジェクトをも進めていた。出産の出来る世代を優遇し、それ以外の高齢者を徹底的に労働力として利用しようという計画だった。
つまり、生殖能力のある世代に対しては、ストレスの少ない安全な仕事に従事させ、出生率を上げ、不足した労働力には高齢者を当たらせるというのだ。
 このプロジェクトを推進させるためには、高齢者たちに肉体労働にも耐えられる体力をつけさせなければならない。そこで、政府は身寄りの無い高齢者やホームレスなどを集めて肉体改造をはじめた。生身の人間からアンドロイドへと変身させたのだ。生れ変わった彼らは、定められた居住区に住み、与えられた仕事を効率よくこなした。
  地下農園の完成と、アンドロイド化の成功によって、プロジェクトは本格的に動き出した。ミアのいるあの農園で収穫作業をしているのも、こうやって作り上げられたアンドロイドたちなのだった。

                                             (つづく)

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小説部・企画第二弾 part2

.。o○☆.。o○小説部・企画第二弾に参加します.。o○☆.。o○
ポルノグラフィティの曲「天気職人」からイメージしたお話です。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

「晴れたら笑顔で」

 学生たちがよく来るところ、この古びたベンチの隣、それがオイラの定位置。
オイラがこの場所に来たのは今から25年前。この大学の卒業生の彫刻家が
寄贈した彼の作品。それがオイラだ。確か名前が付けられていた筈なんだけど
いつの頃からか学生たちはオイラのことを「天気職人」と呼ぶようになった。
なんでも、オイラに願うと晴れにしてもらえるというジンクスがあるらしい。勿論
オイラにそんな力があるわけないんだけどね。偶然が重なっただけなんだ。
 最近は沙都希と虹之介っていう二人がよく来るんだ。この二人は、3ヶ月前から
付き合い始めたんだけど、その告白の場所もここだったんだ。
だけど、あの告白は笑ったなぁ。
「原 沙都希さんですよね。僕、橘 虹之介といいます。
にじのすけと書いて、こうのすけと読みます。突然ですが、僕と付き合ってください」
すごく緊張しながら大きな声で告白してたっけ。
ーーー絶対、振られるぞコイツーーー
って、思ってたのに意外にも彼女、あっさり頷いたんだ。
それから二人は毎日のようにここへ来るようになったんだ。
今日もそろそろ現れる時間だぞ。ほらほら、現れた。
あれれ、なんか様子がおかしいぞ。
「だから、偶然なんだってば」
「へえ、偶然ねえ。随分と仲睦まじい感じだったぜ」
「だって彼、傘持ってなかったんだもの。知ってる人が雨に濡れてるの
見たら黙ってられないでしょ」
ふんふん、なるほど。どうやら、沙都希ちゃんが昨日、雨に降られて困
ってる元彼を傘に入れてあげたらしい。それを偶然見かけた虹之介が、
ヤキモチ焼いてるんだな。
おいおい、それ以上責めると、沙都希ちゃんも本気で怒り出すぞ。
オイラ知らないぞ。
「もう知らない。こんな分からず屋だったなんて」
ほら、怒って行っちゃったじゃないかよ。
ーーー虹之介?オマエ何ぼーっとしてるんだよーーー
あんなに責めてたくせに、もう弱気な顔してるよ。あーあ、彼女の後姿じっと
見つめてるし。
「オレ、言いすぎたのかな」
ーーーああ、言い過ぎてたよ。というより、少しばかりくどかったなーーー
「でも、あんなに怒るなんて、図星だったからかな」
ーーー違うよ、オマエが意地悪な言い方してたからだよーーー
なんだか、またひと雨来そうな雲行きだな。
ーーー虹之介、オマエ早く帰ったほうがいいぞーーー
「あ、雨だ」
ーーーほら降って来たーーー
虹之介はなんで、帰ろうとしないんだ。雨粒が大きくなってきたのに。
何、空見上げてるんだよ。濡れるぞ。風邪ひくぞ。
ーーーオマエ、もしかして泣いてる?ーーー
「ダメな奴だなオレって。元彼にヤキモチ焼いて彼女怒らせて。格好悪いよな」
ーーーわかった、わかったから、早く帰れよーーー
「オレ、このまま振られちゃうのかな」
ーーーそんなこと心配してるなら、謝ればいいだろーーー
コイツ、なかなかいい奴なんだけど、ちょっとばかり気が弱いんだよな。
もっと自信持てばいいのに。傍目から見てれば、沙都希ちゃんも虹之介のこと
大好きなのが、良く分かるのに。コイツは何で不安感じてるんだろう。
「なあ、天気職人、オレ、彼女のこと大好きだよ」
雨降ってるのに、今度はオイラに話しかけ始めたよ。
「言い過ぎたのは分かってる。オレが悪かったんだ」
ーーーその台詞、オイラにじゃなくって、彼女に言うべきだろーーー
「もう、ダメかな」
グズグズと考えてるようだけど、行動しなけりゃ前に進めないぜ。
「天気職人」
またオイラに話しかけるのかよ。
「雨、止ませてくれないかな」
へっ?オイラにそれを頼むのか。
「雨が上がったら」
うん、上がったら?
「彼女に謝って、もう一度デートに誘うよ」
うん、謝るべきだ。でも、オイラには天気を変える力は無いよ。
「天気職人、明日、青空にしてくれよ。オレに勇気をくれよ」
神様、オイラからのお願いだ。
ーーーこの雨止ませてくれ。このままじゃ、コイツ風邪ひくよーーー
不思議なことに、雨が小降りになってきた。
西の空が明るくなってきたぞ。明日はいい天気になりそうだ。
ーーー虹之介、がんばれーーー
「ありがとう、天気職人」
いや、それは違うんだ・・・まあ、いいか。虹之介が笑顔になったから。

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小説部・企画第二弾「天気職人」つづき

          4

昨日まで小雨が降ったり止んだりの天気だったのがウソのように今日は晴れた。
(昨日見たあの老人のキャンバスと同じ空の色だなぁ)
僕はソフトボール大会の集合時間に遅れそうになりながらも、そんなことを考えていた。
河川敷につくと、ほぼ全員が揃っていた。
「遅いぞ、村上。」
「すみませーん。」
先輩の声に、ぺこぺこと頭を下げながらも僕は由美の姿を探していた。
いつもなら、こっちが探さなくても
「こらぁ、遅刻魔ぁ」
なんて、声をかけてくるはずなのに今日はやけに大人しい。
「なんだ、元気ないな。具合でも悪いか?」
僕が声をかけても、
「ううん。大丈夫。」
それだけしか答えない。
(何かあったのかな)

ソフトボールが終わり、みんなでお好み焼きを食べに行ったときも、僕はずっと由美の様子が気になっていた。由美は、普段と変わらない態度を取ろうと努力していたけれど、表情はやっぱり暗かった。
帰り道、
「ちょっと、ぶらぶらしたいな」
と言う由美を僕はあの公園に連れて行った。いつものベンチにはあの老人がいて相変わらずキャンバスに向かっていた。由美は、老人の存在には気付いていないようで、ベンチのすぐ側に立って、話し始めた。
「村上君は、岩田さんと圭子さんのこと知ってた?」
「えっ?」
「だから、あの二人が付き合ってることよ。」
「ああ、まあ、なんとなくね。」
「そうなんだ・・・。」
由美は目の前の池をじっと見つめて、ため息をひとつついた。そして、無理に明るく、
「今日ね、あの二人すごく仲良く現れたのよぉ。みんなもびっくりしてた。」
「だって、いつもは全然そんな感じじゃないもんね。」
そのあと、由美は大袈裟に身振り手ぶりをつけ、先輩達が二人をからかった様子や、その中での二人の反応を話して見せた。先輩たちの話の中から、あの二人の付き合いがもう長い事や、部以外ではとても仲がいいカップルだということを知ったらしい。
由美が明るく話そうとすればするほど、かえって由美の辛さが伝わってきて、僕は黙って聞いていられなくなった。
「もう、やめろよ。」
僕は言ってしまった。
「好きだったんだろう?無理するなよ。」
由美の動きが止まった。目には今にもこぼれ落ちそうなほどの涙がたまっていた。
(しまった)
そう、思ったときにはもう遅く、涙は由美の頬を伝っていた。
「あはは、かっこ悪いね。涙が止まらないよぉ。」
(泣くなよ、僕だって失恋の決定打を受けたんだから・・・)
                      

・・・・・・・ポツ、ポツ、ポツ・・・・・・・・

突然、雨が降り出した。
僕は咄嗟に、老人の方を見た。気のせいだったろうか、老人が僕に頷いたように見えた。
雨のおかげで、由美の涙は一緒に流された。と、同時に泣きそうになった僕の涙も隠してくれた。

                                

           5

「昨日は、雨、ありがとう」
僕は、勇気を出して老人に話しかけた。彼は、黙って頷いた。
「マー坊じゃろ?」
「へっ?」
突然、子供の頃の呼び名で呼ばれ不意をつかれた。
「お前のおあばあさんから聞いておった。」
「おばあちゃんから?」
「そう、お前のおばあさんは今、ワシのところで色々手伝ってくれておる。」
「おばあちゃんは今どこに?」
彼は、空を指差した。僕の勘は当たっていた。彼は、この老人は、やっぱり天気職人だったんだ。そして、彼は、何故自分が僕の前に姿を見せたのかを話してくれた。
おばあちゃんは、死んでからもずっと僕の事を思っていてくれたらしい。それなのに、僕ときたら大きくなるにつれて、おばあちゃんのことを考えなくなっていた。それが、悲しかったらしい。この前、僕がふと思い出したのが、とても嬉しくて、会いたくなったけど元々が人間のおあばあちゃんは、会いに来る事が出来ない。そこで、天気職人が代わりに来てくれたというのだ。
「お前のおばあさんは、伝えたい事があったんじゃ。」
「伝えたい事?」
「そう、お前は心が優しい、だけど少し勇気が足りないとな。」
「うん」
「だから、もっと勇気をもって歩いていって欲しいと、言っておったぞ。」
「勇気を持ってか・・・」
「そして、もうひとつ。天気職人の降らせる雨は、涙を隠してはくれるけど、泣いている人の心を本当に晴らせてあげられるのは、その人を想う気持ちと優しさなんだとな。」
「お前は、昨日の彼女が好きなんじゃろう。彼女の心に青空を描いてあげられるのは、ワシではなく、お前なんじゃないのかな。」
「僕?」
(僕にそんなチカラがあるんだろうか。だって、僕は彼女に失恋してるんだ。)
天気職人は、キャンバスに新しい色をつけた。なんだか満足げな顔で。
「昨夜の風が、いい仕事をしおったわい。汚れた空気をみんな吹き飛ばしてくれた。」
「明日は、とびきりの青空になるぞ。」
そう、独り言を言ったあと、僕の方を見て、
「彼女が誰を好きでも、関係ないじゃろう?お前が、彼女の事を想う気持ちが大切なんじゃ。彼女の笑顔を見ていたいと思う、その気持ちがな。」
彼は、キャンバスや絵筆を片付け始めた。
「明日の天気は、ワシからの贈り物じゃ。無駄にするなよ。」
そう、いい終わるか終わらないかのうちにその姿が消えた。

                       

          6

僕は、黄昏の公園に一人残されていた。
きっと、あの天気職人は僕にしか見えなかったんだろう。
僕は、空を見上げて、おばあちゃんと天気職人に
「ありがとう」
と、言った。

明日、彼女を誘おう。僕の大好きなあの景色を見せてあげよう。
きっと、彼女も笑顔になれるはずだから・・・・・。

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小説部・企画第二弾「天気職人」

小説部の企画第二弾は、ポルノグラフィティの曲
「天気職人」からイメージしたお話を書いてみよう♪です。
何度も繰り返しこの曲を聴いて、私のイメージを書きました。

『天気職人』

           1

さっきまで晴れていたのに、突然ポツリポツリと雨が降り始めた。僕は、おばあちゃんの家の縁側で窓に額を押し当てながら、雲の切れ間を探していた。
「あーあ、はやくあめやまないかなぁ」
僕の隣で、編み物をしていたおばあちゃんが
「マー坊は、雨がキライかい?」
と、聞いてきた。
「うん、ボクあめはキライだよ。だって、おそとにあそびにいけないもの。」
「そうだね、マー坊はお外で遊ぶのが好きだもんね」
優しい笑顔でおばあちゃんは、僕を見た。
「こっちへおいで」
小さな僕をひざの上に座らせて、おばあちゃんは優しく話してくれた。
「マー坊は、天気職人さんを知ってるかい?」
「てんきしょくにん?」
「そう、お空の上にはね天気職人さんがいてね、毎日のお天気を作ってくれているんだよ」
「ふーん。じゃぁ、このあめも、てんきしょくにんさんがふらせてるの?」
「この雨はね、どこかで泣いている人のために、天気職人さんが降らせてくれてるんだよ」
おばあちゃんは、僕の頭をなでながら窓の外を見ていた。
「早くその人の涙がとまるといいねぇ」
「ねぇ、おばあちゃん。ボクがないたら、やっぱりあめはふるの?」
「そうね、マー坊が切ない涙を流したときには、きっと雨が降るよ」
「せつないって、なーに?」
僕には、おばあちゃんの言葉の意味がわからなかった。
「マー坊がもっと大きくなったらきっとわかる時がくるよ」

             

           2

部室の窓から空を眺めていたら、ふと子供の頃を思い出していた。
おばあちゃんは幼い僕に、色々な話を聞かせてくれた。
花や動物、自然が大好きだったおばあちゃんが教えてくれた話は、どれも楽しかった。
そんな楽しい話を教えてくれたおばあちゃんは、僕が小学校3年生のときに亡くなった。
僕は、もうお話が聞けないんだと思うと寂しくて、他の誰よりも涙を流した。
(そういえば、出棺のあの時、雨が降ってたっけなぁ)
成長するにつれて、おばあちゃんとの思い出も薄れてきていた。
天気職人の話を思い出したのは、何年ぶりだろう。おばあちゃんの膝の上に座ってた僕ももうすぐ19歳になる。
にわかに、部室棟の廊下が賑やかになった。僕は壁の時計を見た。
(4時か、もうそろそろみんな来る頃だな)
今日は、週に一回の部会の日だ。普段はあまり部室に顔を出さない人も集まってくる。
まあ、大学の、それも文科系の部だからそんなに厳しい事もなく、幽霊部員なんていうのも結構いるから、この狭い部室でもなんとか間に合う人数なんだけど。もし、入部者全員が集まったら、どこかの教室でも借りなければ入りきらないんだろうな。
「おっ、早いな。もう来てたのか。」
部長の岩田さんが、僕に声をかけた。
「あっ、おはようございます。」
この部では朝であれ夕方であれ、挨拶は「おはようございます」に決まっていた。
岩田さんは、背が高くいつも皮ジャンを着ていて初対面では怖そうな雰囲気だったけど、
実は優しくてみんなから頼りにされる存在だ。そして、彼はこの部の中の同じ学年の圭子さんと付き合っているらしい。先輩たちの間では暗黙の了解らしいが、僕たちの前ではそんな付き合っているそぶりは見せない。なんか、大人な感じの二人だ。
すでに、部室には半数以上の部員が集まってきていた。そして、ひときわ元気良く入ってきたのが、由美だ。
「おっはようございまーす」
彼女は僕と同じ一年で、たまたま入部したのも同じ日だった。小柄だけど元気が良くて、人見知りしないタイプの彼女は、部の中でもすでに目立った存在だ。
目立ってはいるけど、嫌味がなく誰からも好かれる存在。そんな彼女を僕は好きになっていた。でも、彼女にとっての僕は、仲の良い友達。そんな感じなんだろう。きっと、異性という意識もゼロに等しいかもしれない。僕の隣に座った由美の横顔をそっと見る。彼女の視線の先は、岩田さんだ。決して、口には出さないけど、彼女は岩田さんが好きなんだ。
(切ない片思いだよな、お互いに・・・)
由美は、岩田さんと圭子さんのことを知っているのだろうか。
そんなことをぼんやり考えているうちに、部会は始まり、定例のソフトボール大会が来週日曜日、近くの河川敷で行われることが決められていた。新入生との交流を目的に毎年やっているらしい。場所も毎年同じだし、時間も変わらない。一応、確認と一年生に伝える為だけに開かれた部会だったらしく、40分も経たないうちに解散になった。
「なんか楽しみだね。私、おにぎりとか作って行こうかな。」
本当に楽しそうに由美が言った。
「お前の作ったおにぎりって食えるの?」
「失礼ね!これでも、料理は得意なんだから。」
「見たことないもん、わかんねーよ。」
なんでこうかな。素直に、食いたいとは言えない。
軽口をたたきあってる僕らを見て
「仲良いな、お前ら。」
岩田さんがからかった。
由美の表情が少しだけ曇ったのを僕は見逃さなかった。
(そうだよな、憧れの人に勘違いされたくないよな)

帰り道、由美はいつもより無口だった。
住んでるアパートが近くということもあって、一緒に帰る事の多い僕たちだったけど、こんなに無口な彼女ははじめてかもしれない。岩田さんの何気ない一言でこんなにも落ち込んでいる彼女を見て、僕も沈んだ気持ちになった。
(あーあ、オレって完璧片思いじゃん)
それぞれに切ない想いを抱いたまま、僕らは帰った。

                            

           3

次の日、休講になった講義があったので、僕は大学近くの公園にぶらりと来てみた。
天気も良く、池のそばにあるベンチに腰掛けてぼんやりしていた。
昨日の由美の落ち込んだ横顔を思い出していた。
(あいつ、本当に岩田さんのことが好きなんだな・・・・・)
(圭子さんとのこと知らないのかな)
(知ったら、もっと落ち込むんだろうな)
そんなこと考えてたら、なんかすごく落ち込んできた。
(僕の気持ちも知らないんだろうな)
(知ったらどんな顔するんだろう・・・)
まるで、出口のない迷路だなこりゃ。

                
『恋わずらいか・・・』

                    
どこからか声が聞こえたような気がして、横の方を見た。
いつの間に座ったのか、隣のベンチに白髪の老人がいた。
長い白髪を後ろで束ね、白いシャツに白いズボン、全身真っ白だ。
老人の前には、イーゼルとキャンバス。老人は黙々と色を塗っている。
何だか気になって、僕はその老人に近づいた。
老人が描いていたのは景色ではなかった。
「空ですか?」
無意識に僕は聞いていた。老人は黙って頷いた。
「最近は、空気が汚れていて、いい色が出ないんじゃ。」
老人がボソリと言った。僕にはその意味が良く分からなかった。
老人はそれ以上何も言わなかったし、僕も大学に戻った。

何故だか、老人の絵が気になって、日に一度は公園に足が向いた。
老人は毎日同じベンチに座って、相変わらず黙々と色を塗っていた。
ある日は、薄い水色だったり、またある日はグレーがかった色だったりと、毎日微妙に色が変わっていた。
何日かして気付いたのは、老人が色を変えると決まって天気が変わってくるということ。
(おばあちゃんが話していた天気職人さん?)
そんな考えが頭をよぎったけど、訊ねる勇気もなくそのまま黙っていた。

                               (つづく)

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小説部・企画第一弾に参加 4-3

「砕け散った心」(つづき

その日は、仕事も意外に早く終わったので、一旦部屋に帰って着替えをしてから食事に出るつもりだった。僕の部屋には料理をする為の道具や材料というものは皆無に等しかった。いつも外食か、残業で遅くなった日にはコンビニ弁当ですませていたから。
アパートに着くと部屋の前に、彼女が立っていた。手には大きな紙袋を提げていた。
僕に気付くと、ホッとしたような笑みを浮かべ、
「良かった。帰りが遅かったらどうしようかと思った・・・。昨日のお礼にと思って、これ持ってきたんです。」
と言いながら、大きな紙袋を上げて見せた。まさか、彼女がまた訪れてくるなどとは思ってもいなかった僕は、戸惑いながらも彼女を部屋に入れた。
「そんな気を遣ってくれなくてもよかったのに。コーヒー位しかないけど飲む?」
僕は背広を脱ぎながら、彼女に言った。
「あの、私夕食作ってきたんです。この部屋、何もなさそうだったから、家で作ってきちゃいました。良ければ、一緒に食べませんか?」
彼女は紙袋の中から、重箱みたいなものを取り出しながら話していた。テーブルの上に並べられた重箱には、炊き込みご飯や煮物、きんぴらごぼう、菜の花のおひたしなどが詰められていた。彼女が差し出した割り箸を受け取り、僕はソファに腰掛けて炊き込みご飯を食べてみた。美味かった。おかずも、どこか優しい味がして、食べていると心が和むような感覚にさせられた。なによりも、僕のために作られた料理を食べるのは不思議な感覚だった。
「味付け、大丈夫でした?」
「うん。美味いよ。料理上手なんだね。」
僕の返事に、とても嬉しそうに笑ってたっけ。その笑顔が一瞬、眩しく感じたのを覚えてる。
食後、コーヒーを飲みながら彼女は、自分のことについて色々と話した。花屋に勤めていて、将来は自分で店を開いてみたい。とか、その店で、アレンジメントの教室もやってみたいとか・・・・・。ひととおり、しゃべり終わると彼女は
「大きな本棚ですね。本が好きなんですか?」
確かに、余計なものなど何も置いていない僕の部屋に場違いなほどしっかりとした大きな本棚があり、その本棚に近づきながら聞いてきた。
本棚の中身を見られるのは、自分の内面を覗かれるようで嫌だったが、彼女があんまり自然に動いたので、僕は何も言えなかった。
「一冊借りてもいいですか?」
興味のある本があったのか、一冊の単行本を手に彼女が聞いた。
「いいよ」
だいぶ前に読み終わった本だったし、そんなに大切な本というわけでもなかったから、戻ってこなくてもいいなと、思いながら答えていた。
「ありがとう。じゃ、借りますね。」
その本をバッグに入れて、彼女は帰り支度を始めた。気が付けば、時計は10時をまわっていた。夕食のお礼に、僕は車で彼女を送った。

3日後、彼女は本を返しに僕のアパートに来た。彼女はその本がとても面白かったらしく、その本を読んだときの僕の感想を聞いてきた。相変わらず、彼女は僕が訊ねもしないのに自分のことをしゃべり続けた。不思議なことに、僕のプライベートな事に関しては全く触れてこなかった。その日も彼女は本を一冊借りて行った。そして3日後に返しに来る。3回目に来た時には、本と一緒に鍋に入ったままのシチューを持ってきた。そうやって、彼女は来るたび本を借りて行き、彼女が来るたび僕の部屋に鍋やら皿やら、彼女の痕跡が増えていった。

何の約束もしていなかったのに、僕は自分でも気付かないうちに、彼女が来る3日を待つようになっていた。それと同時に自分のことを相変わらず語ろうとしない僕のもとへ、なぜ彼女が訪れてくるのか、知らない男の部屋に無防備にやってくる彼女の本心はどこにあるのか、疑問を抱いた。
彼女が僕のところへ来るようになって、僕の心は微妙に変化していた。
彼女の笑顔に安らぎを感じたり、彼女の話すことに興味を持ったり。それと同時に、初めてのその感情に戸惑いも感じていた。彼女が自分のことをどう思っているのかがわからずに、苛立ちも感じ始めていた。いや、初めての感情に、僕が僕自身に苛立っていたのかもしれない。

あれは、一週間前のことだった。
僕と彼女は、彼女が作った料理でワインを飲んでいた。彼女が来るたびに置いていったもので、僕の部屋でも、十分に料理が出来るほど道具や調味料が揃っていた。
「今日、泊まっていけば?」
僕が言うと、彼女はあっさり頷いた。
そしてその夜、僕は初めて彼女を抱いた。
見えない彼女の本心を探るように、そして僕自身の心の苛立ちをぶつけるかのように、激しく・・・・・。
果てた後の僕を、彼女は優しくそっと抱きしめた。
「寂しい目をしてる。私が貴方の心の鎧を溶かしてあげる。」
彼女の胸の温かさを感じ、その鼓動を聞いていると、僕は初めて癒された気持ちになった。
(ああ、このままずっと抱き合っていたい)
何か、自分の中に温かいものが流れ始めた気がした。
それなのに、僕の口から出た言葉は、彼女を責めていた。
「キミに何が分かるって言うんだ?僕の心の鎧がどんなものか、キミには見えるのか?だいたい、良く知りもしない男のところに通い続けて、こうして簡単に寝ちまうなんて、何考えてるんだよ。」
驚いた、言葉を口にした僕自身が一番驚いた。こんなこと言うつもりじゃなかった。
「簡単に?そう、そう思われたんだ。そうね、私は貴方じゃないから、心の中全部分かることなんて出来ないわね。貴方も私のこと分からないのと同じよね。」
彼女は、そう言いながら身支度をして、さよならも言わずに部屋を出て行った。
一人になった部屋がとても広く冷たく感じた。
何故あのとき僕は、あんなことを言ってしまったのだろうか。あの時、僕は間違いなく彼女の愛を感じたし、また僕も彼女を愛してると気付いたはずなのに。
僕は結局、怖かったんだと思う。いつか、彼女の愛が冷めてしまうのが。僕のお袋みたいに、僕を捨てていってしまう日が来るのを恐れたのかもしれない。温かさを知った後に、闇に戻されることが怖かった。
あれ以来、彼女は姿を見せなかった。いつものように返される予定の本も今回は無い。
3日が過ぎ、僕は迷っていた。勇気が欲しかった。彼女の元へ行って、彼女を抱きしめて、ずっと側にいて欲しいと、言える勇気が。

あれから一週間。僕はこうしてハンドルを握っている。
一秒でも早く、彼女に会わなければ。そして、謝らなければ。
「僕が、間違っていたんだ。許してくれ。僕の側から離れないでくれ。僕をもうあんな暗い世界に返さないで欲しいんだ。」
急がなければ、彼女が消えてしまう。不安で胸がいっぱいになる。
ようやく、彼女の部屋の前に辿り着いた。深呼吸をして、勇気を振り絞って、チャイムを鳴らす。
ドアが音をたてながら開いた。彼女の笑顔がそこにあった。
「来てくれたんだ。」
彼女から温かい風が吹いてきたような気がした。僕は何も言えず、ただ彼女を抱きしめた。折れるほどに強く。
「僕は強くなる。だから、キミを守らせてくれ。」
僕の肩越しに、彼女が頷いたのが伝わってきた。彼女は涙で声を震わせながら、こう言った。
「ありがとう」
と。

                                 (おしまい)

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小説部・企画第一弾に参加4-2

「砕け散った心」(つづき

上京して、あの家から離れたと言うのに、相変わらず僕は孤独を感じていた。
周りに沢山の人がいても、どんな賑やかな場所にいても、孤独はついてきた。
それは、人と会話が出来ないとか、人付き合いが出来ないというのではなく、他人に対して心を開くことが出来なかったからだ。
どこかで、必ず壁を作る。決して、自分のプライベートなことには触れない。だから、自分の部屋に誰かを招くなんてこともなかった。
そんな僕を周囲の奴らは、「全くクールな奴だよ」なんて言っていたが、内心では「摑み所の無い奴」と思っていたに違いない。
その通りなんだよ、僕はそうやって生きてきたんだよ。
肉親からも愛されずに育ってくれば、心にバリヤでも張らなければ生きて来れなかったんだ。
そんな僕だから、女性を心から愛するなんてこともなかった。付き合った女性は、何人かいたが、交際が長くなっても、一向に心を開かない僕に愛想を尽かして、別れ際にはみんな、「貴方とは、一緒にいてもどこか遠く感じる。」そんな言葉を残して去って行った。

彼女と知り合ったのは、僕がよく行っていたバーだった。
あまり広くないその店の中央には、馬蹄形のカウンターがしつらえてあり、そのカウンターの中には年配のバーテンダーが一人でカクテルを作っていた。
彼は決してうるさく話しかけてきたりはせず、ただ注文に応じて美味いカクテルを出してくれた。あまり忙しくは無いその店の雰囲気が好きで、週に一度は必ず顔を出していた。
あの日も、僕は一人でその店のドアを開け、一番端のいつもの席に座った。ジントニックを注文して出されたお絞りで手を拭いているときに、カウンターの一番奥、つまり僕とは向かい合わせになる位置で一人で飲んでいる女性と目が合った。彼女が軽く会釈をしたので、僕も僅かに首を縦に揺らして返した。客は彼女と僕の二人だけだった。彼女は自分のグラスを手に持ち椅子から立ち上がると、僕に聞いてきた。
「隣に行ってもいいですか?なんだかガランとしてて・・・・・」
そんな広くはない店とはいえ、確かに二人しかいない客が向かい合った位置で飲んでいるのも変な感じだったし、特別断る理由も見つからなかったから、その申し入れを了承した。
隣の席に移動してきた彼女は、ポツリポツリと話始めた。
この店に最初に来たのは二年前で、その時好きだった男性と一緒だったこと。その後、結局恋は実らず、片思いのまま終わってしまったこと。そのまま音信不通にしていたが、どうしても諦めきれずに連絡しようと決心したその日に、新聞で彼の訃報を知ったこと。彼の周りの人は誰も彼女のことを知らなかったので、葬式の連絡ももらえず、最後のお別れも出来なかったこと。今日がその日から丁度一年目であることなどを、まるで独り言のように話し続けた。
「今日ここで、彼との想い出にサヨナラするつもりで来たんです。そうでなければ、いつまでたっても、前には進めないから。」
彼女はそう言うと、マティーニを二つ注文して、ひとつを僕に渡し
「乾杯」
と言うと、一息に飲み干した。
「これで、新しい一歩が踏み出せる。」
彼女は笑って見せた。初対面の僕に大切な恋の想い出を語り、まるで以前から知っているかの様に振舞う彼女に多少の戸惑いはあったが、不思議と不快感は感じなかった。
それまでも、かなり速いペースで飲み続けていた彼女は、最後のマティーニで一気に酔いが回った様子だった。席を立とうとすると足元がふらついた。僕は咄嗟に彼女の腕をつかみ支えてやりながら、
「タクシー拾ってやるよ」
と言って、自分の会計を済ませ、店の外に出た。タクシーは簡単に拾えたが、彼女はもう自分の行き先を告げることも出来ないくらいの酩酊状態になっていた。そのまま、置き去りにする訳もいかず、僕は一緒にタクシーに乗り、自分の部屋へ彼女を連れて行った。
自分の意思では歩けない彼女を半ば引きずるような格好で、ベッドに寝かしつけ、僕はリビングのソファに横になった。毛布に包まると、すぐに眠りに落ちた。

翌朝、目が覚めると彼女はもういなかった。テーブルの上に
「昨夜は、ご迷惑をお掛けしました。ありがとうございました。」
と書かれた紙切れを一枚残して。

                      (つづく)

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小説部・企画第一弾に参加 4-1

ポルノグラフィティの『愛なき』という曲を聴いていて、浮かんだイメージを元に、書いてみました。

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「砕け散った心」

いますぐ彼女に会いたい。今行かなければ、彼女がどこかへ消えてしまう。
そんな不安にとらわれ、僕は車を走らせた。
信号待ちの時間さえもどかしく感じるほどに、焦りを感じる。
僕は、こんな感情的な男だったろうか?
いや、違う。ほんの少し前までは、感情で動くことなんかなかった。
そう、彼女と出会うまでは。

僕は親父の顔を知らない。顔だけじゃない、名前すら知らない。
お袋は、親父がどんな人だったかさえ決して僕に語ることはなかった。
それでも、事情はなんとなく耳に入るものだ。噂好きのおしゃべりな親戚というものは、どこにでもいるものだから。直接聞いたわけではないが、どうやら親父はお袋が妊娠したことを知ったとたんに逃げ出したらしい。元々、結婚する気など無かったのだろう。ただの遊び相手にされていることに気付かなかったお袋は、不用意にも僕を身籠ってしまった。それでも、子供が産まれてしまえば、戻ってくるとでも考えたのだろうか。お袋は未婚のまま僕を産んだ。お袋がもう少し思慮深い女だったら、僕を産むことはなかっただろう。いや、産んでくれなかった方が僕にとって幸せだったのかもしれない。
親父を憎んだお袋は、日に日に似てくる僕のことも嫌った。女手ひとつで、子供を育てる辛さからも逃げ出したかったのだろう。金持ちの男を見つけて結婚した。
僕が13歳のときだった。
お袋は迷うことなく僕を祖父母の家に預け、それきり会いに来ることもなかった。
僕が、大学を卒業するまでの生活費を送り続ける事と引き換えに。

祖父母も僕を愛してはいなかった。自分の可愛い娘を捨てて逃げて行った男の血を引いていることが、気に入らなかったんだろう。
家族の団欒なんてモノとは程遠い毎日。僕はいつも孤独だった。
僕は、大人達を見返すために、ひたすら勉強した。
「一流の大学に入って、一流の会社に就職して、そして、こいつらと縁をきってやる」
あの頃の僕は、いつもそんなことを考えていた。
そして、お袋と別れてから5年後、T大に合格した僕は、祖父母の家を出て上京した。
大学時代も、卒業して希望の会社に入社してからも、一度もあの家に帰ったことがない。僕にとってあそこは、帰るべき故郷ではなかった。

                           (つづく)

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小説部・企画第一弾に参加 ②

「夕陽と星空と僕」

高層ビルが立ち並ぶ五車線道路に架かる歩道橋の上で、僕と彼女は眼下を流れる車の川を見つめていた。
「何、悩んでるんだよ。行けよ、NY。」
彼女は唇をぎゅっと噛み、何も言わない。
「夢だったんだろう?こんなチャンス滅多にないぞ。」
「・・・・・・」
「チャンスの女神には後ろ髪はないんだ。その前髪を摑んだ者だけが成功する。」
「・・・・・・」
「何の為に今まで頑張ってきたんだよ。無駄にするなよ。」

デザインの仕事をしている彼女にとって、NYのわりと名の知れたデザイナーからアシスタントとして声をかけられたことは、まさに千載一遇のチャンスだ。
それは、僕と出会う前からの彼女の夢だったし、彼女は本当に一生懸命頑張っていた。僕は、彼女のそういう努力する姿が好きだった。目標に向かって進んでいく女性に魅力を感じた。
しかし、彼女は明らかに迷っていた。いつ戻ってこられるかもわからない期限無しの渡米。それは、僕等二人にとっての別れを意味していたから。
もし、僕が一言
「行くな。オレのそばに居てくれ。」
と言えば、彼女は残ることを選ぶだろう。
だけど、それは彼女にとって幸せなことなんだろうか?将来、僕と結婚して子供が生まれて、日々家事に追われ、キッチンで皿を洗いながら後悔することはないだろうか?
「あの時、別の選択をしていたら・・・」なんて。
僕は彼女に後悔はさせたくない。だから・・・・、
「あなたは辛くはないの?」
彼女が僕の目を見つめながら聞いたとき、
「オレ?オレは平気だよ。」
と答えたし、「待ってるから」とも言わなかった。その言葉を言えば、彼女の心が半端に残ってしまうから。

空港で彼女を見送った後、まっすぐ独りの部屋に帰る気になれずブラブラと歩いていた。気が付くと、あの日彼女と話した歩道橋の前に来ていた。今いる場所よりも少しだけ空に近づきたくて、階段を上った。僕を待っていたのは、沈み始めた夕陽だった。
ふと、彼女が空港で見せた淋しげな表情を思い出して、胸が締め付けられた。あの日、この歩道橋の上で僕が言った言葉に偽りはなかったんだろうか?今更、巻き戻すことはできないけれど、この選択は僕らにとって間違ってはいなかったのだろうか?不安にも似た胸のざわめきを感じながら夕陽を見つめていたら、目の前が滲んできた。一筋の涙が頬を伝い足元に落ちた。

彼女と僕は、それぞれの道を歩いていた。その二本の道はほんの一時重なったのだけれど、それは永遠のものではなかった。僕は、愛しているからこそ彼女の道も大切にしてあげたかった。だけど皮肉なことに、愛と呼べるはずの想いが、重なっていた道をまた二本に分けてしまった。いつかまた誰かを愛する日がくるかもしれない。それでも、この想いのすべてが消え去ることはないだろう。

「サヨナラ。」
声に出していってみた。
少しだけ暗くなり始めた空に、一番星が瞬いた。

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ポルノグラフィティの「夕陽と星空と僕」という曲からイメージして書いてみました。
感想など頂けたら幸いです。

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小説部・企画第一弾に参加します

「音のない森」

近頃ボクは、不意に不思議な感覚に襲われることがある。
人込みの中を歩いていると、突然、街の雑踏がボクから遠ざかっていくのだ。
少しずつボリュームを下げて、そして最後はミュートの状態。
若い女の子の笑い声も、携帯電話で大声で怒鳴っていたサラリーマンの声も、ついさ
っきまで聞こえていた全ての音が消える。
時間にすればほんの数秒の出来事なんだけど、その瞬間、ものすごい孤独感を味わうことになる。だって、ボクだけ全くの蚊帳の外状態なんだもの。

こんな経験をするようになったのは、彼女がボクの部屋を出て行ってからだ。
あの日彼女は、
「サトルは変わってしまった。もう、あの夢を追っていた貴方ではない。身体はここにあるのに、心がどっかに行ってしまった・・・・そんな抜け殻のサトルとは一緒に居たくない。」
そう言うと、部屋の鍵をテーブルに置いて出て行った。
ボクは彼女が好きだったけれど、引き止めることも追いかけることもしなかった。
なんだか面倒臭かったんだ。夢?確かにあったよ。だけど、いつまでたってもその欠片さえ手に入れること出来なかったし。周りもみんなちゃんと就職してて、
親からも
「いつまでフラフラしてる!いい加減目を覚ませ!」
なんて言われるし。
だから、ネクタイを締め背広に袖を通し、満員電車に揺られる生活を選んだんだ。

それは、正解のはずだった。
なのにこの満たされない気持ちは何なんだろう。何一つ心躍るようなこともなく、ただ日々呼吸をしているだけ。
彼女に抜け殻と言われても仕方の無いこと。だけど、大人になるってこういうことでしょ。
一つずつ諦めて、一つずつ捨てて・・・・・。
夢は追い続けたいさ。彼女はいつも、ボクの描く絵が好きだと言ってくれた。
だけど、ボクには才能が無いんだよきっと。

人込みの中を歩きながら、ボクの思考は堂々巡りをしていた。
まるで出口の無い迷路を彷徨っているようで、たまらなくなった。
「どーすればいいんだよっ!」
心の中で叫んだ瞬間、街中の音が消えた。

何も聞こえない。行き交う人たちは、おしゃべりをしたり笑ったり、なにひとつ変化は無いのに、ボクにだけ何も聞こえない。
「ボクは死んでるの?」
耳が痛くなるほどの静寂に包まれ、苦しいほどの孤独感に襲われ、思わず両手で耳を覆った。

・・・・・とくとくとく。・・・・・どくどくどく。
聞こえる。この音は間違いなくボクの鼓動だ。
ボクはボクの中で生きている。心を殺さないでと叫んでる。
空を見上げると、青い鳥が一羽飛んでいた。

次の瞬間、街の音が戻った。
ボクは耳から両手を離し、歩き出した。

ダンボール箱につめて封印した画材を取り出さなきゃ。
そして、彼女に連絡しよう。
「もう一度、夢を見たいんだ。そばにいてくれる?」
って。彼女はなんて言うかな?
目の前が夕日に照らされ明るくなった。

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作品と呼べるかどうか、稚拙なものですが、一生懸命書きました。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

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